今まで秩父地方には高磁場のMRIを設置している病院は皆無でしたが、2001年3月末から皆野病院で稼働しております。数ある医療用画像診断機器でMRIほど多くの機能を持った装置はなく、期待も非常に高いものとなっています。
装置概要
静磁場強度:1.5 Tesla(テスラ)、通常装備の他に、Smartstep, Functool 2000, i/Dlive-Pro, Broad Band Unit (H1 P31 spectroscopy), Sage-7など
MRIとはMagnetic Resonance Imagingの頭文字をとったもので磁気共鳴診断装置のことです。大きな磁石のN極とS極の問に人間を寝かせた状態で特定の周波数(振動数)を持った電磁波を照射すると特定の元素(水素)だけが共鳴して信号を発生します。この信号を集めて人体の断面を画像としたものがMRIです。
磁石や電磁波の影響は?
当院の装置は非常に強い磁石を使用しています。その強さは15,000ガウス=1.5テスラで地磁気の30,000倍ほどあります。また、電磁波というとなにか恐ろしいように聞こえますが、FMラジオの電波と同じ(63.8MHz)
種類で、磁石と同様に人体に悪い影響を与えるものではありません。ただし、心臓のぺ一スメーカー、人工内耳などを装着している人の場合はMRI検査はできません。また、銀行などの磁気カードは使えなくなってしまうことや、鉄などの強磁性体は磁石に引っ張られますから、検査室に持ち込まないようにしてください。
MRI装置はCTに似ていますが、人間のはいる部分が長く、小さなトンネルのようになっています。それと撮影時にかなり大きな音がするために何となく不安になる方もいますが、痛くも痒くもない検査で、しかもCTのような放射線被曝もありませんからリラックスして検査を受けてください。
詳しくはMR室にお問い合わせ下さい。
CTとMRIはどこが違うのですかという質問が多いのですが、同じような画像に見えても表しているものはかなり異なります。
CTはX線の吸収率の差を画像にしているのに対してMRIは体内の水素原子(プロトン)の振動を読み取って画像にしています。したがって水と脂肪(プロトンが多量に含まれている)があればどこでも写りますが、少ないと写りにくいといった現象や、逆に脂肪だけを写らなくしてみたりといったことも可能です。
MRIの検査時間が30-40分程度と長時間かかるのは、撮影方向とコントラストの違う画像を4〜10種類以上も撮影するためで、一つだけでよければCTより早く終了してしまいます。また、場合により造影剤を使用することがありますがCT用の造影剤とは根本的に違う種類の造影剤(全身用と特定の臓器のみを狙うもの、消化管用など数種類ある)で、使用量が約1/10で済みヨードアレルギーのある方にも使用することが出来ます。
CTと比較して優れていることは、体内から出てくる信号を利用しているので骨の影響を全く受けないこと、X線被曝が無いということが挙げられます。
診断能においては、特に頭部、脊髄、骨盤腔に於てはCTと比較するまでもなく非常に高く、すべてを電気的に制御しているため心臓も止まった状態での撮影が出来ます。その他の部位においても世界中で開発しているためCTを追い越すのは時間の問題だと言われています。
ただし、プロトンがないと撮影できないので、骨皮質と肺については当分CTの優位性が続くと思われます。
当院の装置の特徴として、通常のMRI画像の他にMR-S(スペクトロスコピー)が可能であることと、超高速撮影が出来るので、血流量検査(灌流画像・パフュージョン)も可能になっています。(特に急性期の脳梗塞診断に威力を発揮します)
NMRを利用したスペクトロスコピーは第二次対戦後,磁気共鳴現象が発見されて(1945年)からすぐに研究と利用が始まった。
当院のMRIは画像だけでなく図のようなMR-S(スペクトロスコピー)の計測も可能である。
組織を取り出すことなく体外から計測可能で、通常の検査に組み入れることが出来る。
検査時間は測定カ所にもよるが1カ所5〜10分程度必要。計測できない部位もある。
現在のところ調査研究対象で保険適応外検査となっている。
右画像は計測部位。
左は脳梗塞発症前で、中は脳梗塞発症直後の同一患者、同一部位のプロトン計測結果である。
左中を比較するとLac(乳酸)部分が上昇していることがわかる。正常脳組織ではLacは検出されないので、変性を起こしていることを示している。
このことから画像上変化が認められなくても梗塞を起こしている可能性が高いことがわかる。
造影剤を静脈内に急速注入することにより得られる局所脳血流量検査で、脳内のある部位における血流の状態(通過時間・流量)が約1分間で測定できる。
他の血流量検査(SPECT・PET・CT)と異なるのは、放射線被曝が全く無いこと、一連の検査の中で施行できるので時間の無駄が無く、高い分解能を保ったまま全脳の検査ができるといったことが挙げられる。
上の正常例と比べて下の3画像を見ると、グラフの深さ・早さともかなり差があることがわかる。
通常の画像で見ると、この場合FLAIR(フレアー、左下)ではほとんど指摘できず、Diffusion(ディフュージョン:拡散強調画像下中)では白くはっきり出ている。以上のことから中大脳動脈の閉塞による超急性期の脳梗塞であり、非可逆的(回復しない)である可能性も否定できないことがわかる。
実際の検査の中では通常の画像診断(超急性期にはDiffusionで検出できない脳梗塞が存在する)で全く指摘できないが、Perfusionでのみ検出できるということも少なくない。その多くは可逆性であるといわれている。